AI(人工知能)が時の言葉となって、それ…


 AI(人工知能)が時の言葉となって、それ相当の時間が経(た)った。現在、AIが広く利用されている分野の一つに囲碁や将棋の世界がある。この間、名だたる棋士らはAIに負けたが屈せず、特に若手は研究熱心だ。

 前人未到の29連勝を達成した将棋の藤井聡太四段(14)もAIとの対局で鍛えられた一人。AIの現時点での優位を認め、その棋譜を研究することで最善手を追求する。つまり人工知能を超える知能を獲得しようと努めている。

 なぜAIは、棋士が通常選択しない手を指し、最後の勝利を掴(つか)むことができるのか。彼はその手筋を見極めようとしているわけだ。このようなAIに対する姿勢や視点は、特別なものではないようだ。

 羽生善治3冠の著書『人工知能の核心』(NHK出版)によると「人間にあって、AIにないものは『美意識』」だ。それは人間の優越している面だが、勝負事では負の要素となる場合がある。

 しかるにAIは美意識や恐怖心からは自由で、「勝つ」ためには基本筋から外れることに躊躇(ちゅうちょ)がなく、それが彼我の差となり勝敗につながっている。AI攻略法には言及していないが、羽生3冠は“強敵”出現が今後の棋界に新しい光を投げ掛けるかもしれないとみている。

 藤井四段や羽生3冠の言動には、あくまでも自らの実力を向上させるためにAIを利用するという前向きな姿勢が滲(にじ)み出ている。AIの社会的進出を脅威と見なす向きもあるが、棋界に注目したい。