気象学者の故山本三郎さんは冬の富士山に…
気象学者の故山本三郎さんは冬の富士山に百数十回も登ったという登山家。2004年に閉鎖された気象庁の富士山測候所に勤務していたので、その回数は登山でもあり、通勤でもあった。
登るたびに新しい局地気象に出会い、「いまさらながら大自然の微妙複雑さに驚くばかりである」と著書『登山者のための気象学』に記している。この本には富士山のデータがたくさん使われている。
その一つが風系図だ。富士山は単純な形をした山で前面は強風地帯だが、側面では突風地帯やつむじ風地帯があり、反対側では弱風域があり、逆方向から風が吹く所もある。それを図示している。
強風と寒気で氷は固くなり、8合目から上はつるつるの斜面で「死の滑り台」となる。方向の定まらない突風で転倒すると、ピッケルで停止できなければ数百㍍も滑り落ちて、命を落とす。
そこで登山家らは氷雪技術の他に耐風姿勢の訓練をする。それでも滑落事故が毎年のように繰り返されている。山梨県山岳連盟会長の古屋寿隆さんは「8合目より上は日本で一番難しい山」という(小紙2月5日付「冬の富士山、遭難相次ぐ」)。
今年1月に滑落事故で2人が死亡、1人が負傷した。山本さんが一度も事故を起こさなかったのは、山の気象を熟知していたからだが、中でも強調しているのは「観天望気」だ。空の色、雲の形、風の流れなどから短期予想すること。その威力に山本さん自身も驚いている。