フランス南西部ドルドーニュ県にあるラスコー…


 フランス南西部ドルドーニュ県にあるラスコー洞窟は、クロマニョン人の描いた壁画で有名だ。1940年に発見されたが、バクテリアや菌類、藻類による劣化を防ぐため50年に入場制限され、63年閉鎖された。

 訪れる観光客のために83年、隣に洞窟のレプリカを手作業で再現した。「ラスコー2」と呼ばれているものだ。さらにデジタル技術を使って15年、「ラスコー3」が製作され、今、東京・上野の国立科学博物館の「ラスコー展」で展示されている。

 研究に基づいて作られた2万年前の母子像から始まり、壁画を体感できる洞窟の空間へと案内する。3次元レーザースキャンを使って腕利きの画家が取り組み、コピー精度は1㍉以下だそうだ。

 バイソン、ヤギ、シカ、ウシ、ウマなどがおびただしく登場し、動物の群れの中に紛れ込んだかのようだ。表現は精密で、頭を小さく、足を細く、胴体をふくよかに描いたデフォルメも美しい。

 ヨーロッパで最初に登場する絵画だそうだ。芸術の始まりとして解説している。が、美の鑑賞のために描かれたのだろうか。宗教学者らは洞窟を、狩猟の安全と成功を祈った「聖なる場所」と位置付け、絵画に呪術の意味を読み取った。

 そうした観点から見ると「井戸の場面」に登場する謎の「トリ人間」は、仮面をかぶった呪術師だということになる。埋葬の際もアクセサリーを施し副葬品を供えた。宗教感情の起源を暗示している歴史遺産だ。2月19日まで。