『夜と霧』を書いた心理学者、V・E・…


 『夜と霧』を書いた心理学者、V・E・フランクルの生涯にわたった趣味はロッククライミングだった。ヨーロッパアルプス山中に初登頂したルートが二つあって、彼の名前が付けられているという(『フランクル回想録』)。

 その体験は彼の人生を豊かにしてくれたもので、受けた27にも及ぶ名誉博士号よりも大きな意味があると感じるほどだという。初登攀(とうはん)は若い時のことと思われるが、年を取っても登り続けた。

 公開中の米映画「メルー/MERU」は登山界での最先端の様子を伝えている。メルーはインド・ヒマラヤのガンゴトリ山群という辺境にあり、標高6600㍍。高さを追求する時代は去り、美しく困難な山を求める時代の目標の一つとされた。

 1980年代後半から挑戦されてきたが、初登攀されたのは2001年。ロシア人クライマーによるものだった。が、北東壁からのルートで、クライマーたちが目標としたのは中央峰上部岩壁の直登ルート。

 そこが最大の課題で、シャークスフィンと呼ばれている岩壁だ。この映画は、その初登頂を11年9月に成し遂げたコンラッド、ジミー、レナン、3人のクライマーたちのドキュメンタリー。

 日本にもメルーをロシアンルートから登頂した4人のクライマーがいて、この映画にコメントしている。その一人、馬目弘仁さんは「ロープの先には友情がある」としみじみ語る。初回の遠征副隊長がよく口にしていた言葉だそうだ。