<幼子の静かに持ち来し折り紙のゆりの花手に…
<幼子の静かに持ち来(こ)し折り紙のゆりの花手に避難所を出づ>――天皇、皇后両陛下が昨年詠まれた御歌のうち、宮内庁が新年に当たり発表した計8首の中の一つ。天皇陛下が熊本地震の被災地を見舞われた際の思い出を御歌にされた。
皇后陛下も熊本の被災地御訪問で<ためらひつつさあれども行く傍(かたは)らに立たむと君のひたに思(おぼ)せば>と御歌に御心情を込めておられる。今月は新春恒例の「歌会始の儀」が控える。
歌を詠んできた皇室の伝統は日本の文化と歴史とも重なる。「歌はそのまま思い出であり、歴史である」との言葉もあるという。
天皇陛下はこれまで毎年、年頭に当たっての御感想を発表されてきたが、行事が相次ぐ年末年始の御負担軽減のため今年から取りやめとなった。それでも御歌から熊本地震の被災者に心を寄せられる温かいお気持ちはよく伝わってくる。
平成24年年頭に発表された両陛下の御歌の多くは、前年の東日本大震災の被災地への御心情を詠まれたものだった。<被災地に寒き日のまた巡り来ぬ心にかかる仮住まひの人>天皇陛下。皇后陛下は津波にさらわれた母に手紙を書きながら寝入ってしまった岩手・宮古市の4歳女児の新聞写真を見られて<「生きてるといいねママお元気ですか」文(ふみ)に項傾(うなかぶ)し幼な児眠る>と詠まれた。
東日本大震災、昨年の熊本地震と新潟・糸魚川市の大火災。御感想はなくとも「皆が力尽くして」と陛下の御声が聞こえてくる。