東京・渋谷区神宮前の江戸前寿司屋「おけいすし」…


 東京・渋谷区神宮前の江戸前寿司屋「おけいすし」の親方、鈴木正志さんがこのほど『おけいすし 江戸前にこだわる「寿司屋ばなし」』(講談社)を上梓(じょうし)した。

 「私どもの寿司をひと言で言うなら、まず『世界にひとつ』ということ、そして本当の意味の『江戸前』であるということ、それに尽きる」。江戸前を冠した寿司屋は幾多あるが、東京湾またその近海であがる魚にこだわるのはうちだけ、と鈴木さんは胸を張る。

 そして「2020年五輪イヤーへ向けていっそう外国人の方々をお迎えすることになる。そのためにも本当の江戸前の寿司を、人種や国境を超えてお楽しみいただけるよう精進したい」と。

 いい話だが、以前の東京を知る者にはいささか寂しくもあるだろう。かつて東京湾は海洋生物の生産性の高さでは世界でも有数の海域で、多種多様な魚貝が生息していたが、激減してしまった。江戸前寿司が食べられなくなるのは理の当然なのだ。

 素晴らしい海を失ったことを、われわれの子孫はどう評価するだろうか。100年、200年の長期的視点で、東京湾の在り方を考え直す冷静さも必要だろう。

 いや、そんな遠い将来の話ではない。今、東京五輪に向け、関係者は東京の魅力をどう発信するかに躍起だ。東京湾の自然の中で生み出される固有の文化を復活、創造し、世界に魅力ある東京湾をアピールする視点が大切だ。東京は陸だけではない。