福沢諭吉の著書に『痩我慢の説』がある。…


 福沢諭吉の著書に『痩我慢の説』がある。明治24年、勝海舟と榎本武揚について論じた同名の草稿が、諭吉の主宰していた「時事新報」で後に公表されまとめられたものだ。

 その中で諭吉は、敵に対して旗色がよくない場合でも、力の限り戦うことが痩せ我慢なのだと主張する。徳川は三河武士の粘りを発揮し、薩長との間で真剣勝負を続けるべきだったというのである。

 一方、海舟は「徳川幕府あるを知って日本あるを知らざるの徒は、まさにその如くなるべし。唯百年の日本を憂うるの士は、まさにかくの如くならざるべからず」と、その著『氷川清話』で切り返している。

 徳川幕府しか見ない立場で理想を掲げる諭吉と、100年先の日本を心配して講和を実現した自分とでは、全く考え方が違う、と言いたかったようだ。

 今回の日露首脳会談。4島の帰属問題では実質的な進展はなく、落胆、失望の国民も少なくないだろう。これに対し安倍晋三首相は、早速16日にNHKの午後9時からのニュース番組に出演、「北方四島の未来の理想の姿を見据え」今後の活動に全力を尽くすと強く訴えた。

 すぐ結果が見えてこない事柄に関し、安倍首相が熟考を重ねた様子はよく伝わってきて、くだんの海舟の姿を思い浮かべた次第。ただその直前、両首脳記者会見時のプーチン大統領の満足げな様子は、してやったりという心の表れであったようにも見える。