「海をはるか沖へ出ますと、水は一番美しい…


 「海をはるか沖へ出ますと、水は一番美しいヤグルマソウの花びらのように青く、このうえなくすんだガラスのようにすんでいます」。アンデルセンの童話「人魚姫」の冒頭で、海の中の美しさ、にぎやかさ、楽しさが描写されていく。

 罪を知らない世界にいる人魚姫たちと、罪悪世界の地上の王子様とが対照的に設定されたのは、キリスト教のモラルを背景にしていたからだ。この物語を題材にした中国映画「人魚姫」が来月公開される。

 アンデルセンの時代、環境破壊の問題などはまだ現れていなかった。チャウ・シンチー監督のこの映画は、人物の設定も類似しているが、時代は現代で、環境破壊のために“人魚族”は絶滅の危機に瀕(ひん)していた。

 王子様に代わって登場するのは若き実業家で、美しい自然保護区の湾を買収し、リゾート開発のために海洋生物を超強力ソナーで排除。行き場を失った“人魚族”は難破船に逃げ込んでいた。

 彼らは幸せな生活を取り戻すため、人魚姫を刺客として送り出す。だが若き実業家を暗殺することに失敗し、その代わりにデートに誘われる。実業家は純真な人魚姫に心癒やされ、惹(ひ)かれていく。

 実業家の心は拝金主義から環境保護主義に変わり、「この世からきれいな水や空気がなくなったら、お金なんて意味を持たない」と断言。中国では環境汚染が極めて深刻だ。彼らの理想を描いて映画はアジア歴代興行収入ナンバーワンを記録した。