イタリア・シチリア島の町、タオルミーナに…


 イタリア・シチリア島の町、タオルミーナにギリシャ人が造りローマ人が改造した劇場が残っている。その見物席の最上段からは、エトナ(活火山)の全山から海岸の波打ち際まで、全景が見晴らせる。

 「(ギリシャ時代の)演劇が、蒼い空、蒼い海、白い山などを見晴らしながら鑑賞せられていた」ことは「私には実に案外なことであった」「演劇鑑賞の心理を考える上に相当重要なこと」と和辻哲郎は『イタリア古寺巡礼』に書いている。

 時代、ジャンルとも異なるが、同様の味な舞台が今秋楽しめそうだ。東京・浅草の浅草寺境内(本堂裏)に1億円を掛けたヒノキ造りの組み立て舞台が用意され、東京スカイツリーも見える所で文楽が、10月15~18日まで演じられる。

 プロジェクト「にっぽん文楽」の浅草公演がそれで、昨年の東京・六本木と大阪公演に続き3回目。主催の日本財団が先日発表した。同公演には文楽人形遣いの吉田和生氏や吉田玉男氏、三味線の豊澤富助氏らが出演する。

 演目は『義経記』が基の「五条橋」と、奈良の壷阪寺にまつわる名作「壺坂霊験記 山の段」。壺坂霊験記は「観音様」を本尊とする浅草寺にちなむ。

 文楽(人形浄瑠璃)は竹本義太夫が出現し、近松門左衛門をとりこにした江戸中期には、既に出来上がっていたという。その芸術様式がずっと続き、今日も強い存在感を発揮しているその謎めいた歴史にも魅力を感じる。