美と力と勢いがぶつかり合った壮絶な死闘は…


 美と力と勢いがぶつかり合った壮絶な死闘は、間違いなくリオデジャネイロ五輪の最高の名勝負として後世に語り継がれよう。体操男子個人総合で内村航平選手(27)はウクライナのオレグ・ベルニャエフ選手(22)に、最終種目の鉄棒で大逆転劇を演じ五輪2連覇を果たした。

 着地をピタリと決めた内村選手に対し、ベルニャエフ選手は片足が1歩乱れた。着地で1歩踏み出した時の減点0・1よりも小さい、僅差も僅差0・099の点差で及ばなかった。

 演技を終えて内村選手自身「今回は負けた」「力は出し切ったから悔いはない」と思い、8年ぶりの敗戦を覚悟してベルニャエフ選手の結果を待った。人事を尽くして天命を待つ、そういう心境で得た、まさに紙一重、薄氷の勝利だった。

 ドラマは続きがある。この種目の10日に行われたメダリストの記者会見。内村選手が浴びた「あなたは審判に好かれているのでは?」の底意ある質問に、ベルニャエフ選手が答えた。

 「スコアはフェアで神聖だとみんな知っている。彼はキャリアの中で、いつも高い得点を取ってきた」とピシャリ。続けて「今の質問は無駄だと思う」と退けたのである。

 試合後、内村選手に「次にやったら絶対に勝てない」とまで言わしめた困難な国情にあるウクライナのホープ。その五輪に最も相応(ふさわ)しい高貴な精神を日本や海外メディアが称(たた)えている。ベルニャエフ選手の銀メダルは金色(こんじき)に輝きを放っている。