「紫陽花の毬まだ青し降りつゞく」(松下古城)…


 「紫陽花の毬まだ青し降りつゞく」(松下古城)。季節ごとに咲く花が違うのは造化の妙。この時期になると、気が早いが、梅雨入りのことを考えてしまう。梅雨の時季の花であるアジサイのことがあるからだ。

 花というのは、咲くまではあまり意識に入ってこないものが多い。桜も5月のツツジやサツキも、色鮮やかな花が目について、もうそんな季節かと実感させられる。

 ところがアジサイの場合、道の側や庭の片隅などで、色白の緑の茎や葉が日に日に濃くなっているのが、否が応でも目に留まる。そろそろ咲き出しますよ、とでも言うかのようだ。

 春に桜が似合うように、梅雨のじめじめした雨には、アジサイの花が似合う。花と季節感は切り離し難いものがある。

 もし桜がなければ、きっとのどかな気持ちで春を迎えられるだろう、という空想を歌に託して詠んだのは六歌仙のひとり在原業平。しかし、それは逆説的に桜の素晴らしさを褒め称えるためのレトリックだった。だが梅雨の時季にアジサイがなければと考えても、いい歌がなかなか思い浮かばない気がする。

 やはり桜とは特別な花で、他の花と違う精神的な絆を日本人との間に感じさせるものがあるのだろう。そろそろ6月の声を聞く頃だが、今年の梅雨入りはいつになるのか。気象庁によれば、関東甲信地方は平年であれば6月8日ごろだが、昨年並みだと3日ごろとなる。