「十数万人が犠牲になった原爆の惨劇に思いを…


 「十数万人が犠牲になった原爆の惨劇に思いをはせるために広島を訪れた」――。平和記念公園を訪れる多くの人々と共通するが、現職の米大統領の言葉であることに千鈞(せんきん)の重みがある。オバマ大統領の広島訪問は、核廃絶と日米同盟深化への歴史的な一歩を記すものとなった。

 英国滞在中、日本で生活した経験のあるインド人青年と知り合いになり、彼が訪ねた広島のことに話が及んだ。

 話しているうちに気がついたのは、どうも彼は、日本人が原爆ドームを歴史的記念物として保存しているのは、いつか、この借りを米国に返すため、怨みを忘れないためと思っているらしいことだ。

 日本人が原爆ドームを残しているのは、原爆の恐ろしさ、悲惨さを後世に伝え、二度と核兵器を使わせないためだ、と縷々(るる)説明しなければならなかった。考えてみれば、そのインド人青年のように考えるのが普通なのかもしれない。

 しかし、ヒロシマの心は純粋に惨劇を伝え、平和を祈念するもので、被害者・加害者といった概念もないに等しい。日本人の独特の発想法と原爆の悲劇のあまりの大きさがそうさせるのだろうか。

 オバマ大統領の広島訪問で、日本が大戦の「加害者」であったと強調する中国の王毅外相の言葉には、うんざりさせられた。被害・加害を超えた大きな目標を追求するヒロシマの心を、中国共産党の指導者に理解させるのは、残念ながら難しいようだ。