ついこの前まで、公園や堤や道端などの桜や…


 ついこの前まで、公園や堤や道端などの桜や花水木、ツツジなど春の花に目を奪われてきた。一昨日の母の日は、花屋の店先を埋め尽くした真っ赤なカーネーションが母親への感謝を奏でるとともに、初夏の訪れを告げた。

 季節は、同じ桜や花水木の花のあとに広がる緑の輝き、鮮やかさに改めて目を見張らされ、花に劣らず心をとらえられるころ。秋の紅(黄)葉の主役となるモミジやイチョウもこの時期、新緑葉の涼しげな美しさを見直す。

 厚手の深緑の葉となるヤツデやアオキも今は柔らかで伸びやかな青葉若葉である。さわやかで見事な緑を前に、つい「♪あざやかなみどりよ、あかるいみどりよ、――」(文部省唱歌「若葉」)と口ずさみたくなる年配の方もおられよう。

 「日本語源大辞典」では、緑は「草木の新芽」を意味し、そこから色の名となったとある。日本人は草木の新芽の色に、微妙な違いを見分けて何種類もの緑を名付けてきた。

 若草、若竹、萌黄、裏葉柳、松葉、青緑、常盤、木賊、千歳緑などなど。新緑とひとくくりにしても、緑葉の濃淡の微妙な違いは奥が深い。

 春の淡い緑はおぼろげで、どこかもの足りなさを感じさせる。それが初夏になると、それぞれに落ち着いた個性豊かな緑となり、そのオーラが心身ともに癒やしてくれる力を持ってくる。連休は終わっても、5月は正岡子規<心よき青葉の風や旅姿>である。