ウグイスの初音を聞く季節となった。昨年の…
ウグイスの初音を聞く季節となった。昨年の初音は、東京・新宿の繁華街にある新宿末廣亭で聞いた。もちろん、本物のウグイスではない。四代目江戸家猫八さんによる声帯模写である。
その日は、猫八さんが長男の子猫さんと共演していた。ウグイスのさまざまな鳴き方を聞かせてくれたが、とりわけ子猫さんとの鳴き声のやりとりが賑やかで楽しかった。何より親子共演というのがほほ笑ましかった。
その猫八さんが、進行胃がんで亡くなった。66歳、その芸がさらに円熟味を増していくことが期待される年齢だけに惜しいとしか言いようがない。そして子猫さんとの親子共演が見られなくなるのが寂しい。
声帯模写は、形態模写その他を混ぜ合わせエンターテインメント性を増した、いわゆるモノマネとは違う、純然たる声帯による芸。こういう芸の中では古典的なものの一つだろう。声帯によってさまざまな動物の鳴き声をまねするのだから、人間が万物の霊長であることを示す芸と言えなくもない。
気流子などの年齢になると、江戸家猫八といえば、お父さんの三代目の方が親しみがあった。その芸が孫の子猫さんに受け継がれているのは心強い。
能や歌舞伎をはじめ、日本の伝統芸能は親から子、子から孫へと血筋を通して受け継がれているものが圧倒的に多い。小さい頃から仕込む必要があるなど、特殊な事情もあると思われるが、世襲ということの功には大きいものがある。