このところ、桜の蕾(つぼみ)がふくらんで…


 このところ、桜の蕾(つぼみ)がふくらんで見える。少しばかり緑や朱色がのぞいている気がする。油断していると、開花の瞬間を見逃してしまいそうだ。

 気象予報会社の予想では、東京地方は21日ごろに開花とある。桜の開花時期が気になるのは、もちろん花見のこともあるが、それよりも開花が手品のように一瞬という印象があるからだ。

 前日までは、そんな気配もないのに、翌日には花が誇らしげに咲いているという経験は何度もある。そのたびに嬉しい気持ちもあるが、何か見逃して惜しいような、不思議な感慨を覚えるのである。桜はそんな思いを抱かせる花だと言っていい。

 これは古代人も感じていたらしく、桜の開花を未来の啓示のようなものと見ていたという。すなわち稲などの秋の実りと結び付け、豊作の「予祝」現象と考えていたのである。桜の開花が多ければ、秋の実りも豊穣(ほうじょう)になるという考え方である。

 そのために、花見を一家総出で盛大に行う。花見は物見遊山というよりも農耕儀礼の一つで神事に近いものだったらしい。その時間が楽しければ、秋の実りも楽しいものとなる。そんな心理である。

 毎年、桜は変わらずに開花するが、そのたびに心がドキドキするのは不思議だ。まさに、人の世の変わりやすいのに比べ、自然は変わらないことを歌う、中国・唐時代の詩人・劉希夷の詩句「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」が思い浮かぶ。