日本を代表する美しい景観として、外国人に…


 日本を代表する美しい景観として、外国人に有名なのは言うまでもなく富士山である。しかし、かつてはその富士にも劣らない、「世界第一ノ景」とまで言われた地域がある。瀬戸内海である。

 明治初年に、欧米を巡った岩倉使節団の一員であった久米邦武は、『特命全権大使欧米回覧実記』の中で、西洋では瀬戸内海の景色の素晴らしさが大変評判で「世界第一ノ景ト称スル」と報告している。

 幕末から明治にかけ、日本にやってきた外国人は、船で瀬戸内海を通過することが多かった。彼らは、静かな内海に多くの島が点在する景色に魅せられたのだ。

 近代ツーリズムの生みの親、トーマス・クックも、明治初年に日本を訪れ、瀬戸内海を旅し、イングランド、スコットランド、アイルランド、スイス、イタリア全部の「最も良いところだけとって集めて一つにしたほど美しい」とまで述べている。

 以上は、西田正憲著『瀬戸内海の発見』(中公新書)に書かれてある。同書は日本人と景観美について論じた本だが、人々の眼差しの変化や景観の破壊など、瀬戸内海の内外の名声がそれほどでなくなっていった背景も語られている。

 外国人観光客を自分たちの地方にも呼び込もうと、瀬戸内海に面した7県が「せとうち」という地域ブランドの確立のために官民連携の機構を設立するという。瀬戸内のかつての名声を回復できるか、深い反省と研究が必要だろう。