今年はリヒャルト・ワーグナーの生誕200年に…


 今年はリヒャルト・ワーグナーの生誕200年に当たり、彼の壮大な楽劇が演奏される機会が多かった。このワーグナー・イヤーの最後を飾っているのがドイツ映画「ルートヴィヒ」だ(12月21日公開)。

 ドイツ映画界が20億円の費用を投入して製作した大作で、ロケ舞台としてロマンチック街道の観光スポット、ノイシュヴァンシュタイン城をはじめルートヴィヒの夢の象徴となった城の数々が使われている。

 ルートヴィヒがバイエルン王国の王位を継いだとき、ドイツ連邦ではプロイセン王国とオーストリア帝国が統一をめぐって主導権争いを繰り広げていた。バイエルンも戦争の事態に備えて軍備拡張をしてきた。

 だがルートヴィヒはその政策をストップさせ、国民の安全に必要なのは「詩と音楽の奇跡だ」と主張、重臣らを唖然とさせる。さらにドイツから追放されていたワーグナーを招聘(しょうへい)し、彼の庇護(ひご)者となる。

 物語は、現実を無視して芸術を追求するルートヴィヒと、政治にまで自己主張するワーグナーとの関係を軸に進行していく。「ワーグナーは猛毒です」とは重臣の言葉だ。その苦い経験をドイツ連邦のザクセン王国も味わっていた。

 “猛毒”は生身のワーグナーが放っていたものだが、長い歳月にさらされて驚くべき作品の数々だけが残され、今ではその毒もほとんど消えているのかもしれない。彼の見た幻だけが私たちの体験できるものだから。