『三島由紀夫の言葉』(新潮新書)という本が…
『三島由紀夫の言葉』(新潮新書)という本が昨年末刊行された。亡くなって半世紀弱、存命なら90歳。戦争について語っている部分がある。「今の若い人たちは戦時中の生活について、暗い固定観念の虜(とりこ)になりがちである」というのがそれだ。
戦争というと若者たちは、平凡な人間の生活があり、日常性があり、静けさがあり、夢さえあったことを忘れる、と三島は言う。この言葉が発表されたのは、死後のことだ。
三島が半世紀後の現在のことまで考えていたかどうかは不明だ。が、戦争について観念でしか考えることができないと三島に指摘された半世紀前の若者たちは、今や高齢者となった。だが彼らは今も変わっていない。理由は戦争がなかったからだ。
「戦争100%」と「平和100%」が対比されるのが、現在の戦争(平和)観だ。「○×」風に単純化するのが特徴だ。
東日本大震災当時、現場にいたテレビ出演者の笑っている姿が流れ、非難が殺到した。彼はしばらく画面から消えた。大震災のさなかであっても、人間社会には笑いたくなるようなことは起こるのだが、「震災=100%悲惨」と考える人には不謹慎に見える。
戦争は震災よりも遥かに昔のことだから、観念で考える習慣はさらに強そうだ。三島の言葉は、ある意味平凡な人間の真実を語っているのだが、それがなかなか素直に受け止められない戦争観中心の時代が続いているようだ。