戦前戦後と日本の銀幕を彩った伝説の女優…


 戦前戦後と日本の銀幕を彩った伝説の女優・原節子さんが95歳で亡くなった。戦後70年の年に、戦後の日本女性の理想像を演じてきた原さんが亡くなったことに、特別な感慨を覚える。やはり国と時代を背負った女優だった。

 今井正監督「青い山脈」では、戦後の価値観を体現した、明るく聡明で自立的な女性を演じた。しかし小津安二郎監督の作品では、聡明なだけでなく慎ましやかな日本女性を演じる。その到達点が「東京物語」の「紀子」だろう。

 さらに「秋日和」などの作品で、日本女性の理想的な美しさを具現化させた。こうした原さんの演技なしには、小津作品の世界的な高い評価はなかっただろう。

 それら女性像は、小津監督と女優・原節子そして映画ファンの三者による共同製作物と言える。それを演じた原さんといえども、勝手に壊すことはできない。

 原さんの中にそういう考えがあったかどうかは分からない。しかし1962年、「忠臣蔵」に大石りく役で出演したのを最後に映画から引退。63年、小津監督の通夜に弔問に訪れた後は公の場に姿を現さなかった。

 結果的に原さんは伝説の女優となり、原さんが演じた日本女性の美の典型が、映画の中で永遠に生きるようになった。時代と共に女性の理想像も変わる。だからこそ、世界的な評価を得た美しさを映画の中に残せたことは、将来的に大きな意味を持ってくるように思う。