「達磨(だるま)さんの葦(あし)の葉ですよ」…


 「達磨(だるま)さんの葦(あし)の葉ですよ」。歌の姉弟子からペンネームの由来を問われた明治の作家・樋口一葉(本名・奈津、1872~96年)は、そう答えたという。達磨大師が揚子江を一葉の葦の葉に乗って下ったという故事にちなんだ洒落(しゃれ)である。

 波間に浮き沈みする一葉の運命に、自らの姿を重ね合わせたのだろう。端正な顔立ちは五千円札の肖像で分かるが、17歳で父親を失ったあとの生活は一転した。女戸主として母親と妹を抱えての生活苦にあえいだ。

 窮乏生活の中、24歳で夭折(ようせつ)するまでの14カ月の間に、代表作「大つごもり」「たけくらべ」「にごりえ」などを次々に書き残す。古き時代に生きる女性とその心持ちを詩情豊かに描いたのだ。

 そんなころ借金のために一葉が通った旧伊勢屋質店(1860年創業)が、この8日から一般公開されることになった。東京大学赤門前を通る本郷通りから菊坂を半ば下った所にある旧質店。文士の質屋通いは珍しくないが、店主が香典を手に焼香に駆けつけたのは一葉ぐらいと言われる。

 そんなエピソードに彩られる90年建築の木造2階建て店舗兼住宅は、江戸の町屋のたたずまいを伝える歴史建造物。学校法人跡見学園が文京区の補助を受けて購入し、今回の公開となった。

 同じ菊坂の途中から左を並行する小道を下り、左に横丁を入ると一葉旧居跡地の一つ。旧式ポンプの井戸がある。23日は一葉忌。