『安全技術の経済学』(鶴蒔靖夫著)によると…


 『安全技術の経済学』(鶴蒔靖夫著)によると、産業構造物で事故が起きる原因には「多重安全設計の不備」「設計施工上のミス」「金属疲労」「突然変異・変化」「自然災害」などがある。

 マンションのような建造物の場合も同様だろう。波紋を広げる旭化成建材による建物基礎工事の施工データ改竄問題では、このうち最初の二つが意図的に犯された疑いが出ている。

 まず設計上の不備で、くいの長さが元々足らなかった可能性がある。その上で、くい打ちを担当した者が、工期に遅れが生じないよう、データのつじつま合わせ(改竄)をする。設計担当とくい打ち担当は申し合わせたわけでないから罪意識が薄い……。そんな構図だろうか。

 今回の件で国土交通省の「もはや個人の問題にとどまらず、会社全体の問題だ」との懸念に対し、旭化成建材は工事を行った全国の建築物に改竄がないか調査しているという。安全性の確認は顧客のため、販売前後に真っ先に励行すべきなのに、それをしていない。唖然とさせられる。

 わが国の建築上の安全基準は海外に比べ、相当高いと言われる。ところが、安全思想や高い技術をアピールしながら、まともに実行されていないのであれば何をか言わんやだ。

 「技術の目的はあくまでも人間生活の安全確保にある」(同書)。その技術が、結果的に広く人々に不安を与えることになった。信頼回復には多くの費用と時間がかかるに違いない。