国宝「松林図屏風」などで有名な桃山画壇の…


 国宝「松林図屏風」などで有名な桃山画壇の巨匠、長谷川等伯の水墨画が今年4月に新しく発見されたニュースは、多くの美術ファンの注目を集めた。その「猿猴図屏風」「松竹図屏風」が、等伯の故郷、石川県七尾市の石川県七尾美術館で全国に先駆け公開されている(25日まで)。

 今年開館20周年を迎える七尾美術館は毎年春、等伯の企画展を開き、今春も障壁画の最高傑作と言われる京都・智積院の「楓図」を展示。そして新発見のこの水墨画を京都造形芸術大から譲り受けたのである。

 両図とも紙の欠損部分があるのは惜しまれるが、等伯ならではの力強さと繊細さを持つ作品だ。署名や落款はないが、画風や細部の描写が鑑定の決め手となった。

 「猿猴図」では腕を上に曲げた右側の猿の上の部分が欠損している。しかし、ここに何が描かれているかは、京都・相国寺の等伯筆「竹林猿猴図屏風」を見れば容易に想像がつく。そこには親猿に肩車された子猿が描かれている。黒田泰三・出光美術館学芸部長によると、「猿猴図」に子猿の手が描かれているのが確認できる。

 「気」など東洋哲学を背景に持つ水墨画に等伯は、このような日常的な親子の情愛の世界を愛らしい動物を通して描いたのである。

 水墨画の骨法、描法を踏まえ、等伯が表現したのが家族の情愛であったというのは、日本文化の根にあるものを考える上で実に示唆的だ。