「わが頭上最も青し秋の天」(岩崎偶子)。…


 「わが頭上最も青し秋の天」(岩崎偶子)。昨日の関東地方は久し振りの晴天に恵まれ、青空が頭上をおおっていた。いかにも秋らしい日和で、木々の葉に落ちる優しい光に満ちていた。

 日差しも季節によって印象が違う。夏と冬の日差しは違いが分かりやすいが、春と秋は似ている。しかし、やはり異なっている。

 春の暖かなやわらかい光は、これから芽が育つのを見守るような感じがする。それに対して、秋の日差しはどこか透明で、例えるならば人生の後期を思わせるものがある。

 三好達治の処女詩集『測量船』の冒頭には「春の岬」「乳母車」「雪」「甃のうへ」など季節感にあふれた詩が収められている。特に有名なのは「あはれ花びらながれ/をみなごに花びらながれ」に始まり、桜の散る風景を詠んだ華やかな「甃のうへ」や「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。/次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。」の二行詩「雪」だろう。

 秋を詠んだのは「乳母車」だが、これもまた「母よ――/淡くかなしきもののふるなり/紫陽花いろのもののふるなり」とリズミカルな詩句に忘れ難いものがある。

 この詩には「母よ 私の乳母車を押せ」という印象的な一節がある。母の愛情に包まれた過去の懐かしく美しい思い出を回顧したものだろう。秋は実りの季節だが、厳しい冬を控えているため、どうしても思いは過去に向かいやすいのである。