今回の司法試験問題漏洩事件は、発覚の経緯が…


 今回の司法試験問題漏洩事件は、発覚の経緯が興味深い。採点を担当した考査委員が答案の論文に違和感を覚えた、とのことだった。

 優秀な古美術鑑定家や古美術商が、一瞬で贋作を見抜くのと同様の眼力が働いたようだ。贋作にはある種の「いかがわしさ」があると言われるが、この事件では論文の出来が良過ぎたために疑われた。

 一介の受験生にしては、妙に出来過ぎている。一流の学者と同程度の水準の論文が、あらかじめ準備していたように書かれている。奇妙な力が働いていた可能性を考査委員は考えたのだろう。

 彼の優れた直感によって、あってはならない事件が発覚した。やはり考査委員で問題の内容を漏らした大学院教授は刑事告発された上で懲戒免職、答案を書いた教え子の20代女性は、今回の試験は失格、さらに今後5年間、司法試験の受験資格停止の処分となった。

 「法を守る意識」よりも「それ以外の感情」が勝った結果の事件だ。半面、そこが人間だとも言える。法律のことなど重々分かっている一流の憲法学者でも、やってはならない行為を行ってしまう。

 この種の人間の奇怪さは、誰も合理的に説明できない。だから「魔が差した」などと言う。実はその「魔」も、当事者自身が生み出したものなのだが。「法の扱えない領域」が自分の中にも潜んでいたことに驚いているのは、当の元教授だったのではあるまいか。