新宿中村屋ビルに昨年10月に開館した中村屋…
新宿中村屋ビルに昨年10月に開館した中村屋サロン美術館で「斎藤与里のまなざし」展が開かれている。斎藤与里は1885年、現在の埼玉県加須市の生まれで、生誕130年を記念する展覧会だ。
会場に入ると、最初に出迎えてくれるのは彫刻家・荻原守衛の代表作「女」である。跪いて身をねじり、顔を上に向けている像で、この作品を完成させて間もない1910年4月、荻原は急逝した。
長野・安曇野出身の相馬愛蔵と妻の黒光が中村屋本店を新宿に移したのは09年8月。同郷のよしみで、近くにアトリエのある荻原と交流が始まり、荻原を中心に美術家たちのサロンが形成されていった。
このサロンに最初に集った一人が斎藤なのだ。斎藤は06年、師の鹿子木孟郎に付いてパリに留学。古典芸術だけでなくセザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、マティスら先端の芸術に触れ、自己の表現を開花させる。
パリで出会ったのが荻原で、その頃発表された夏目漱石の小説「二百十日」の主人公にちなんで、斎藤は荻原を「碌さん」、荻原は斎藤を「圭さん」と呼んだ。荻原の号・碌山の由来である。
斎藤の初期から晩年までの作品約30点が展示されている。作風はフォーヴィズム風から明るい童画風、牧歌風へと変わっていく。美しい色彩が際立つのは故郷へ戻った45年以降。地元では親しみを込めて「与里さん」と呼ばれ、薫陶を受けた人も多いという。同展は9月27日まで。