戦後の歌謡界に大きな足跡を残した歌手の島倉千代子さんが…


 戦後の歌謡界に大きな足跡を残した歌手の島倉千代子さんが亡くなった。島倉さんがその地位を不動のものにしたのは、昭和32年の「東京だョおっ母さん」の大ヒット。

 田舎から出てきた母親に娘が東京を案内する設定だが、2番では「あれが九段坂」と、戦死した兄が祀(まつ)られた靖国神社へお参りする。終戦から10年ちょっと、戦争で息子を失った母たちの胸に深く響いたに違いない。

 独特の美しい声と抜群の歌唱力に加え、和服の似合った島倉さんには男性ファンが沢山ついた。63年の「人生いろいろ」のヒットあたりからバラエティー番組にも出演してファン層も広がった。

 しかし、デビュー当時からファンの核になっていたのは「おっ母さん」世代の人々だった。島倉さん自身は東京生まれだが、集団就職などで娘を地方から東京に送り出した親たちには、島倉さんが自分の娘と重なるところもあったのではないか。

 日本が高度成長の坂を上っていた頃、夢と癒やしを与えてくれた歌手だった。1歳上で歌手としても先輩の「昭和の歌姫」美空ひばりさんとも大の仲良しで、ひばりさんが妹のように可愛がっていたという。時代を背負って歌に生きた二人だから通じる世界があったに違いない。

 巨額の借金を背負わされたり、乳がんの手術をしたり、まさに「人生いろいろ」だったが、それを乗り越え、最後まで歌を歌い続けた。お千代さんが逝って、昭和がまた一つ遠くなった。