戦後70年の今年、成人で終戦を迎えた人は既に…
戦後70年の今年、成人で終戦を迎えた人は既に90歳を超えている。東京都世田谷区在住の山本方子(まさこ)さん(94)は、戦中・終戦直後の記憶を語る数少ない一人だ。
山本さんの夫は、韓国の国民的画家、李(イ)仲燮(ジュンソプ)さん。昭和31年に39歳の若さで亡くなったが、来年は生誕100年を迎える。方子さんのこの間の生き様を描いたドキュメンタリー映画「ふたつの祖国、ひとつの愛~イ・ジュンソプの妻~」が全国各地で上映された。
2人は16年、共に東京の文化学院で学んでいた時に出会った。仲燮さんは18年、京城(現・ソウル)で開かれる美術展への出品で一時帰郷したが、戦況が悪化し東京に戻って来られなくなった。
しかし2人の思いは募り、方子さんは20年3月、危険を冒して博多港から釜山に渡り、仲燮さんの故郷元山(北朝鮮の東南部)に赴いて結婚。2人の男の子に恵まれ、平穏な日々が続くかと思われたが、韓国動乱が25年に勃発。一家は26年、済州島西帰浦(ソギポ)に移り住んだ。
家族4人が間借りしたのは、3畳ほどの部屋。仲燮さんは、後に見いだされる傑作を次々とものにしたが、一家に生活の糧はなく極貧状態が続いた。
27年に方子さんは健康を害し2人の子供を連れて帰国。当時、日韓間に国交はなく翌28年、特別に許可された仲燮さんの日本一時滞在が共に過ごす最後となった。映画は、激動の時代を生きた一人の女性を見事に描き出している。