「尾瀬と呼ばれる地方は、風景要素を最も…
「尾瀬と呼ばれる地方は、風景要素を最も多量に備え、景色ははなはだ複雑し、変化に富む点で、邦内これと比肩し得る地はまれである」。登山家で植物学者の武田久吉(1883~1972年)は、『尾瀬と鬼怒沼』で尾瀬をこう称えた。
山岳、湖沼、渓流、森林、湿原とその要素は多彩。彼が尾瀬に分け入ったのは1905年。「植物学雑誌」(03年)に掲載された早田文蔵の「南会津並ニソノ付近ノ植物」を読んで好奇心にかられたからだ。
福島県の檜枝岐村に「ミニ尾瀬公園」がある。尾瀬の季節を一足早く体験できる公園として99年にオープン。檜枝岐川の東側にあって、湿原エリアや山野草エリアでは季節ごとの花を見ることができる。
先日、訪ねてみるとヒメサユリ、ヒオウギアヤメ、クロユリなどが咲いていた。村人が狩猟で入山する際、安全を祈願した山の神や、江間章子作詞、中田喜直作曲の「夏の思い出」の詩碑・譜碑もあった。
美術館やホールが3棟あって、その一つが「武田久吉メモリアルホール」。ノート、原稿、記録、写真、著書、カメラ、登山靴、ピッケルなど、遺族や日本山岳会から提供された貴重な遺品である。
檜枝岐村は南会津で最も辺鄙な地にあって、古い風習を残していると言われてきた。が、行ってみると、しゃれた温泉旅館があり、名物の木工品も販売され、付近の山々の登山基地でもあって、歴史をとどめた貴重な観光地なのである。