「いにしへのまゝの我家や燕の巣」(鈴木綾園)…


 「いにしへのまゝの我家や燕の巣」(鈴木綾園)。外を歩いている途中、雛(ひな)の鳴き声のようなものが聞こえた。街路に面しているドラッグストアの軒の端にツバメの巣があった。

 間もなくエサをねだる雛の黄色いクチバシが見られるはずで、それが楽しみである。ツバメは風薫る季節の風物詩であり、その切れのいい飛び方は優雅で美しい。

 ツバメで思い出すのは、映画や小説で描かれた宮本武蔵のライバルだった佐々木小次郎の秘剣「つばめ返し」。物干竿(ものほしざお)と呼ばれる長剣で、ツバメを両断する場面はよく知られている。小次郎は実際に存在したらしいが、詳しいことは分からないようだ。

 歴史は勝者のものと言われる。巌流島で勝った武蔵の史料は残っているが、敗者の小次郎は歴史の闇に埋もれてしまったということだろう。「つばめ返し」という言葉が残っただけでも良しとすべきかも。

 俳句では「燕の巣」は春の季語になっている。おなじみの歳時記をひもとけば「春先、南から帰って来た燕は、人家の軒先や梁(はり)などに、泥土、藁、枯草、羽毛などを混ぜて巣を作る。一度巣をかけた家は覚えていて毎年戻って来る」(稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』)とある。

 人家など身近でよく見られるためか、ツバメの子育てを応援したくなるせいか。巣に屋根のような覆いをかけ保護しているのを見かける。鳥の中でもツバメは人間とちょうどいい距離を保っていると言えそうだ。