「寂しいという感情は全くない。2000局以上…


 「寂しいという感情は全くない。2000局以上指したので堪能した」と、18歳でプロ入りし56年半に及んだ棋士人生を振り返った。やり残したことはないと晴れやかな表情で語る。31日に引退する現役最高齢棋士の内藤国雄九段(75)の記者会見(20日、関西将棋会館)。

 通算1132勝は歴代6位だが、ちょうど1000敗の方は同3位である。対局数も同3位の2132局で、七大タイトル戦は王位と棋聖を各2期獲得。引退の理由の一つは、ひざや腰の悪化で長時間の正座が保てなくなったことだが、気力の問題も。

 昨年9月から負け続け、1000敗を区切りとしたのは1000勝達成(平成12年9月)当時に、ファンから来た手紙である。

 引退の気持ちを見透かされ「ダメですよ。今度は一千敗するまで頑張ってください」と激励された。「当時、私は七百五十二敗でしたから、どうもその手紙にこだわった所があって」(文藝春秋4月号「棋士ほど楽な商売はない」)現役を続けた。

 1000勝達成のあと、勝敗を気にせずに将棋を指せたらどんなにいいか、かねて夢に描いていたことをやってみた。「すると、将棋がなんとも面白くない。これには参りました。やはり将棋は勝ち負けのゲーム」(同)と原点に。

 「空中戦法」など華麗な攻めは「自在流」と親しまれ、多彩な才能は演歌歌手としてミリオンセラーとなった「おゆき」でも発揮された。やはり引退は寂しい。