「鉛筆で髪かき上げぬ初桜」(星野立子)。…


 「鉛筆で髪かき上げぬ初桜」(星野立子)。東京地方の開花宣言の後、いつ小社の敷地の桜が咲くだろうと思っていたら、いつの間にか七分咲きぐらいになっていた。それにしても、散るのも早いが、咲く方もあっという間。

 とはいえ、よく観察すると、数本ある桜の中でも、そろそろ満開と思うものから、まだ咲き始めといったものまで、咲き具合にばらつきがある。

 日なたと日陰というほどの違いはないから、それぞれの木の生長の度合いなどが影響しているのかもしれない。桜は不思議な花である。気分が少し落ち込んだ日でも、この花を見ていると心が自然に晴れやかになってくる。

 その意味で、日本人の精神に深い関わりを感じさせるものがある。桜を日本の花の代表として愛するようになったのは、平安時代の歌人から。中国の唐風文化の影響を受けて梅の花が好まれた万葉時代に対して、日本独自の国風文化が華開いた頃である。

 海外のものを消化するまでの時間が、桜の美の発見に費やされたとも言える。それは、明治時代の文明開化から、西洋文化を独自のものとした大正・昭和へと向かう近現代の流れに重なるものがある。

 昭和14(1939)年のきょうは、20代半ばで夭折(ようせつ)した詩人の立原道造の忌日。明治初期の翻訳のような固い日本語の詩と違い、自在なリズムを持つ口語を駆使した立原の詩は、今でも多くの人々に愛唱されている。