栃木県佐野市にある万葉自然公園かたくりの…


 栃木県佐野市にある万葉自然公園かたくりの里で、カタクリの花がいっせいに開花している。紫色の花がうつむいて先を反らしている様子は、可憐で美しい。

 かたくりの里は、標高229㍍の三毳山(みかもやま)の北の斜面中腹にあり、1・5㌶の雑木林に150万株もが群生している。昭和50年代後半に確認され、62年に市の天然記念物に指定された。4月5日まで「かたくりの花まつり」が開催中だ。

 カタクリは万葉植物で、越中守に任ぜられた大伴家持が現地で「もののふの八十(やそ)少女(をとめ)らが汲(く)みまがふ寺井の上の堅香子(かたかご)の花」と詠んだ。初めて出会った自然に目が開かれ、この一首が生まれた。

 水を汲みに来る少女たちと、井のほとりのカタカゴ(カタクリ)の群生が、鮮やかな印象として心に刻まれたのだろう。田中澄江さんの『花の百名山』では御前山がカタクリの名所として登場し、戦後、奥多摩ではいくらでも見られたという。

 だが、その後、カタクリはあちこちで姿を消していった。栽培は難しく、田中さんも「わが家の庭にも(中略)三、四本があるけれど、二十年このかた、一度も花の咲いたことがない」と記している。

 カタクリは早春に葉や茎を伸ばして開花するが、その後枯れて、地上から姿を消してしまう。最初に発芽してから開花するまでに7~8年もかかり、種子はアリに拾われて生育地を広げていく。この小さな植物にも造物主の心が宿っているのだ。