「高齢者の転倒・転落で亡くなる人は年間約…


 「高齢者の転倒・転落で亡くなる人は年間約7700人。近年の交通事故死が6000人ほどだから、大変な数です」。先日、都内で開かれた日本財団ケアポートフォーラム2015で基調講演を行った日本転倒予防学会理事長の武藤芳照・日体大総合研究所所長。

 「転倒するにはわけがあり、転ぶくらい体が弱っている」から。ところが転倒するまでそれを自覚している人は多くない。しかも「その後の1年間に再び転ぶリスクは約5倍ある」。

 にもかかわらず、膝が悪くなっても杖をつかない人が少なくない。「杖をついていたら、膝が悪いと(他人に)分かってしまう」からだそうだが、笑うに笑えない。心まで萎縮して、自信と希望を失う老人が多いという。

 脳卒中などの病後について似たことが言えそう。厚生労働省などの調査で今、寝たきりの老人人口は150万人前後とみられる。武藤氏の杖の話ではないが、こちらは病後の適切なリハビリを怠って寝たきりになってしまう人が多い。

 脳卒中の場合、症状によるが、回復には相当の決心が要るのは確か。しかし本人は「リハビリする姿を見られたくない」「外の垣根につかまりながら、散歩したりするのはみっともない」と屋内に閉じこもりがちに。

 そのうち寝込むようになると、気持ちがなえ、さらに体力が低下するという悪循環が続く。つまり「寝たきりの多くはつくられている」と言えるのである。