将棋八段のプロ棋士が「二歩」をやってしまう…


 将棋八段のプロ棋士が「二歩」をやってしまうという珍事が最近起こった。これは将棋盤の縦軸に歩を二つ並べてはいけないというルールで、初歩中の初歩だ。

 二歩の瞬間、勝負は終了。反則負けとなった。八段という高位のプロが二歩をやるのは極めて稀だ。主催者のNHKの調べでは、2000年以降は2度あっただけ。

 世の中には、この種の珍事が生じる。「弘法にも筆の誤り」ということわざがあるのはそのためだ。自然科学者は「100%とは言い切れないが、ほぼ……だ」という言い方をする。99・9%は間違いないが、残る0・1%については断定できない、という意味だ。

 それを逆手にとって、例えば原発に反対する市民運動家は「100%安全と言い切れるのか」と訴える。この世に「100%安全」なぞあるはずがないことを承知の上で言っているのだが、「100%絶対主義」はなかなかなくならない。日本では毎年数千人の交通事故死者が出る。「100%安全」ではないが、車を廃止しようという動きはない。

 「魔が差す」という言葉がある。将棋八段のミスもそうだろう。実在も定かでない「魔」のせいにするしかない。

 世の中はおおむね普通に進行するが、ごく稀に考えられないようなことが起こる。「二度あることは三度ある」なのか「三度目の正直」なのか。どちらも、人間世界の真実を言い当てた言葉には違いない。