あす開業する北陸新幹線終点の金沢は、…


 あす開業する北陸新幹線終点の金沢は、独特の文化的存在感を持った都市だ。その一端は、三島由紀夫著『美しい星』(1962年)にも描かれている。

 最近刊行された村松友視著『金沢の不思議』(中央公論新社)は「不思議」という切り口で魅力を伝える。カギとなるのは歴史だ。

 その中心人物が前田家3代目の利常(1593~1658)。前田利家の四男として、側室との間に生まれた。2代目利長の弟に当たる。加賀百万石の前田家は徳川家を除けば日本最大の大名だが、しょせんは外様だから江戸幕府とは敵対関係になりかねない。

 そこで利常が考えたのが文化的戦略だ。発足直後のデリケートな幕府に対して「我が藩は文化で行きますよ」というメッセージを送った。「事を構えるつもりはありません」ということだ。藩の生き残りをかけた戦略だった。

 文化と言えば京都。千利休の孫の千宗旦(茶道)、野々村仁清(京焼)、俵屋宗達(画工)らと親交を結んだのも、戦略に加えて、もともと文化的素質があったためだろう。江戸の幕府と京都の文化との両面を視野に入れながら利常が心を砕いたことが、400年後の今日まで金沢が金沢であり続けている一つの要因ではあろう。

 ちなみに金沢の鰻料理は、背開きであるところは江戸風、蒸さないで焼くところは関西風だという。利常が鰻の食べ方まで考えたかどうかは分からないが、面白い話だ。