「みちのくの伊達の郡の春田かな」(富安風生)…


 「みちのくの伊達の郡の春田かな」(富安風生)。「春田」とは3月の季語で、『ホトトギス新歳時記』(稲畑汀子編)によれば「秋、稲を刈った跡に麦や野菜を作らず、春までそのままにしてある田をいう」とある。

 その春田にかつては、一面に紫色の花が咲き乱れていたことを思い出す。幻想的で童話的な風景だった。その花は「紫雲英」(別名、レンゲソウ)。中国原産のマメ科ゲンゲ属に分類される越年草だ。

 ゲンゲが田に植えてあるのは、それを緑肥とするためだった。化学肥料が使われるまではごく当たり前の風景で、菜の花と同じように原色で春の到来を知らせてくれた。

 俳句の「みちのくの伊達の郡」は福島県の伊達郡(現在は伊達市など)を指す。伊達郡は、戦国武将の伊達氏の発祥地としても知られている。伊達氏というと仙台藩藩主のイメージが強いが、もともとは福島に拠点があった。豊臣時代に伊達政宗が転封されることで宮城県に移ったのである。

 その伊達郡の田に咲くゲンゲは、いかにも東北の春らしい風景を浮かび上がらせている。花の周りには、チョウチョやハチが飛び回っていた。特にミツバチの羽音が春の陽気の中で眠気を誘うものだった。

 きょうは「3」「8」の語呂合わせで「みつばちの日」。ゲンゲの花のミツは、ハチミツの源となる「蜜源植物」としても知られている。ミツバチの飛ぶ春の風景が減っているのは残念である。