「冬の梅きのふやちりぬ石の上」(蕪村)。…


 「冬の梅きのふやちりぬ石の上」(蕪村)。梅の花の見ごろにはまだ早いが、日本列島の南からはそろそろ開花の便りが届く季節。もっとも気象庁のホームページによれば、東京の昨年の開花日は1月19日だ。

 ただ、本格的な開花は2月からと考えた方がいいだろう。冬から春にかけて咲く梅は、長かった冬の終わりと春の訪れを告げる花と言える。

 梅は万葉時代には花の代表的な存在で、和歌の題材としてもよく詠まれている。当時は和歌で花といえば、ほぼ梅を指している。今では桜を意味するのが当たり前だが、そうなったのは平安時代あたりから。

 梅は日本固有種のように思われがちだが、実は中国渡来の外来種。万葉時代には貴重だった。あまり見られないハイカラな花だったからこそ、知識人や貴族の心を捉えたのである。その意味では、梅は先進文化を象徴する花で、万葉歌人が好んで題材としたのも分かる。

 梅で思い出されるのが、菅原道真である。貴族出身ではない道真は、漢籍の知識や理解によって出世の道を開いた。梅を愛したのも、それが漢籍を生んだ中国を象徴する花だったからだろう。

 道真は藤原氏との政争に敗れて九州の大宰府に移ることを命じられ、延喜元(901)年のきょう都を出発した。有名な和歌「東風吹かば匂ひ送来せよ梅の花主無しとて春を忘るな」は、この時詠んだものである。これにちなみ、1月25日は「左遷の日」とされている。