「橙ののりたるくぼみ鏡餅」(江口竹亭)。…


 「橙ののりたるくぼみ鏡餅」(江口竹亭)。都会生活をしていると、何事もコンパクトになりがち。鏡餅も手の平サイズですませ、ちょっとした飾り物扱いだ。

 田舎にいた時は顔ぐらいの大きさのものを供えていた。ちょうど固くなり始めた頃合いに、皆で分けて食べる儀式があった。きょうはその「鏡開き」の日である。

 鏡餅という名前は、その形が鏡に似ていることによる。鏡開きは特殊な言い方だが、これは江戸時代の風習から来ているらしい。武家社会では切ることが「切腹」をイメージさせるために、縁起のいい「開く」に言い換えた。だから、鏡餅は割ったり砕いたりして食べた。

 その風習は今でも残っていて、田舎では金づちなどで叩いて割った記憶がある。鏡餅には、ところどころひび割れがあり、それほど苦労しなかった。ただ、保存状態によってはカビが少し生えていたこともある。

 その頃には、もう毎日が餅尽くしだったので、いささか飽きていて、あまり鏡開きも感動することはなかった。ただ、これで正月も終わるという印象だけはあったことを覚えている。餅に始まり、餅に終わるという感じだった。

 きょうは「塩の日」でもある。これは戦国時代、上杉謙信が宿敵の武田信玄に塩を送った故事に基づいて制定された。「敵に塩を送る」という言葉もここから来ている。鏡開きといい塩の日といい、日本人の古き良き伝統文化に根差したものである。