ドゥマゴ文学賞の受賞作は毎年、「ひとりの…


 ドゥマゴ文学賞の受賞作は毎年、「ひとりの選考委員」によって選ばれる。選考委員の任期は1年で、対象は日本語の文学作品。昨年度の選考委員は評論家の松本健一さんで、選んだのは恩田侑布子さんの『余白の祭』だった。

 松本さんには独自の選考基準があった。「今日の文学状況はみんな『私』にこだわって進んできた。その外にある世界、長い歴史が入ってこないといけない。それを排除してきたのでやせた状況になってしまった」。

 受賞作は芸術論・俳句評論集で「〈近代的自我〉の表現を超えて、現代文学の閉鎖状況に風穴をあけるような作品」。俳人の恩田さんにとっては思いがけない受賞だったが、「俳句が変革のエネルギーを秘めた芸術」であることが認められて感謝した。

 先日亡くなった松本さんの晩年の仕事の一つで、文学の方向性を示唆していた。松本さんは近代日本の思想史やアジア文化論を専門としていたが、独自の視点が読者をひきつけた。

 最後の著作は『「孟子」の革命思想と日本』で、なぜ日本の天皇家には姓がないのか、という謎に迫ったもの。この謎に関心を持つようになったのは『評伝・北一輝』全5巻を2004年に書き終えた頃だ。

 北一輝の革命思想は『孟子』と関わっていて、中国では『孟子』を根拠に「易姓革命」が繰り返されてきた。その『孟子』が日本でどう扱われたかを洗い出して謎を解く。最後まで探究心が旺盛だった。合掌。