俳優の高倉健さんの訃報が伝えられて以来…


 俳優の高倉健さんの訃報が伝えられて以来、献花台を設けるなど各地で追悼する動きが広がっている。亡くなって改めて、日本人の心の中に占めていた健さんの大きさを知らされる。

 健さんが演じた寡黙、律義、ストイック、しかし他者への思いやりと優しさを備えた主人公は、健さん自身の姿とも重なる。それは日本の役者の分類から言うと、いわゆる二枚目型でなく、立役(たちやく)の伝統に沿うものだ。公のため、あるいは愛する人のため己を犠牲にし、自分は幸せにはなれない。「鉄道員(ぽっぽや)」の駅長がその典型だろう。

 戦後こういう生き方は、古いと否定されてきた。にもかかわらず、健さんが強い人気を誇ったのは、日本人の中に「公のため他者のために自分を殺す、それが男」とする心が生きていることを証明している。

 立役ではないが、そういう点は、寅さんを演じた渥美清さん、小津安二郎作品などで「日本の父」を演じた笠智衆さんにも共通している。

 戦争に敗れ、戦後崩壊の危機に瀕(ひん)したのが、日本の男の美学であった。そんな中で、美学を守り演じたのが健さんだった。

 草食系だとか、男子像がさまざまに揺れる時代、健さんに代わるような俳優は出るのだろうか。身近にいそうなイケメンのお兄さんがもてはやされる今、かつてのスターの時代は終わりつつある。新しい時代のスターの登場に期待したいところだが、結局伝統的な立役的スターは健さんが最後になるのかもしれない。