昭和天皇御製(ぎょせい)。「山百合の…
昭和天皇御製(ぎょせい)。「山百合の花咲く庭にいとし子を車にのせてその母はゆく」。御製とは天皇の作られた歌のこと。昭和天皇が、現在の皇后陛下の皇太子妃時代を詠まれたものだ。
「いとし子」は現皇太子殿下。山百合の咲く庭での光景を歌われている。「車」はベビーカー。ごく日常的な題材だ。
この御製は今年9月に公開された『昭和天皇実録』に収録された。『実録』は、昭和天皇が1960年7月1日、東宮御所を訪問された時に詠まれたもの、と紹介していた。皇太子殿下は同年2月にお生まれになったので、そのころは御誕生後数カ月。
先月、それを記事にした新聞を読まれた天皇陛下が「山百合であれば那須御用邸が正しいのではないか」と指摘された。宮内庁が皇后さまにも確認したところ、陛下の御指摘の通りで、日時も同じ年の8月6日であったことが判明した。
時間と場所に関する『実録』のミスだったが、この種の話はしばしばある。文学の世界でも「作品そのものが重要。場所や時間が少々違っていたとしても、作品の評価には関係がない」という意見がある。逆に「細部の事実をおろそかにすべきではない」との考え方もある。
今回のケースは単純な誤りだったと思われるが、山百合という花の記憶を手掛かりに、半世紀も前に作られた昭和天皇の御製に関わることがらについて指摘される陛下の「事実の正確さ」への強い御情熱を物語るエピソードだ。