毎年のように受賞が予想される村上春樹氏だが…


 毎年のように受賞が予想される村上春樹氏だが、今年もノーベル文学賞を逸した。その理由として言われるのが「メッセージ性のなさ」だ。

 報道によれば、今年の受賞作家は、ナチス占領下のパリを舞台とした作品で知られる。対して村上作品は、その種のメッセージ性や政治性は全くない。

 日本で村上作品は、読者の評価は高いが、専門家は必ずしもそうではない。本人も当初は、専門家の評価なぞ気にすることはなかった。30年近く前のことだが、「自分の作品が後世に残る可能性はない」と認識していたこともある。だが、ことがノーベル賞となれば話は別だ。

 「メッセージ性のなさ」を作品で補うことは作風上できないが、作品以外で何とかすることは可能だ。パレスチナとイスラエルの対立について、イスラエルを批判する演説を外国で行ったこともある。

 ノーベル文学賞の選考委員たちが要求するメッセージ性は、日本の文学では最近40年ほどは全く人気がない。日本で村上作品が評価されるのは「メッセージ性のなさ」のためだったのだが、欧州中心の選考委員は違うようだ。

 だが、まだ分からない。流れは変わることもあるし、村上作品以上の作品が生まれないことも考えられる。三島由紀夫、安部公房、井上靖のように、名前は何度も挙がるものの受賞はかなわなかった作家たちとは違った運命が待っていることは十分ありうる。