「梨むける女生徒旅の指濡らす」(大星たかし)…
「梨むける女生徒旅の指濡らす」(大星たかし)。秋の味覚の代表であるナシは、尻のあたりで甘味が強く、芯に近い部分は酸味が強い。だから縦に切ると味に偏りがなくなる。皮をむいて切ってから冷やすと、よりおいしくなる。
埼玉県蓮田市はナシの名産地。明治末頃、洪水でもナシだけは被害が少なくて、栽培が盛んになった。高虫の廿浦(つづうら)果樹園では「幸水」「豊水」「新高」を作っているが、昨年から作り始めたのが「彩玉(さいぎょく)」。
これは埼玉県オリジナルの品種で、県農林総合研究センターで育成。「新高」と「豊水」を交配してでき、平成17年2月農林水産省に品種登録された。生産は県内に限定されている。8月下旬から9月上旬が収穫期。
果樹園を営む廿浦敏雄さんの意識の中心は今年の出来具合。非常に甘いジャンボナシで「味は良かった」と言う。だが天候に敏感で「出荷調整がうまくできなかった」と不満ももらす。
県内のあちこちに直売所があり、「涼しい果物の贈物」とPRしている。廿浦さんのもう一つの関心は、柔らかい肉質へのニーズに応えようと開発された晩生(おくて)の新品種「甘太(かんた)」。
農研機構が開発し、昨年11月品種登録出願公表され、苗木がこの秋から販売される。過去に33県で試作し、廿浦さんも試食してみた。素晴らしい出来栄えだったが、苗木の購買には踏み切れないでいる。問題は自身の老齢だ。後継者もいない。日本農業の根本問題でもある。