サミュエル・ジョンソン博士といえば、18世紀…
サミュエル・ジョンソン博士といえば、18世紀に初の本格的な英語辞典を編纂(へんさん)した英国文壇の大御所として知られる。博士はその「燕麦(えんばく)」の項をこう書いた。「イングランドではふつう馬の餌になるが、スコットランドでは人の食料となる穀物」。
ジョンソン博士としては、事実をもとに定義しただけなのかもしれない。しかしスコットランド人としては、いい気持ちはしないだろう。
しかし、こんなことも言っている。「食通なら誰でも、世界中のどこで夕食をとっても、朝食はスコットランドでとるだろう」。
スコットランド蔑視と言われるジョンソン博士だが、そのスタッフにはスコットランド人が多かったらしい。ほかでもない、助手で伝記文学の傑作とされる『サミュエル・ジョンソン伝』を書いたジェイムズ・ボズウェルもそうだった。
そのボズウェルが、博士の「燕麦」の定義を逆手にとって、こんな名言を遺している。「ゆえにイングランドでは馬が優秀で、スコットランドでは人が優秀である」。
スコットランド独立の是非を問う住民投票が18日に行われる。最新の世論調査によれば、賛成・反対ほぼ拮抗し、予断を許さないようだ。他国人には分からない歴史的な恨みや民族感情はあるだろう。しかし、ジョンソン博士とボズウェルの絶妙なやりとりのように、それぞれのプライドを持しながら一つの国である方が、スコットランドにとってもいいと思うのだが、どうだろう。