山頂に到達するための岩登りであるアルパイン…


 山頂に到達するための岩登りであるアルパインクライミングから分かれて、クライミングはそれ自体が競技として行われるようになった。オーバーハング(ひさし状の張り出し)のある人工壁をロープで確保されて登るリード種目。5㍍の人工壁をロープなしで登るボルダリング種目。

 競技は技術や戦略を洗練させる一方、補助手段なしに岩を登るフリークライミングを盛んにし、かつて「極めて困難」と位置付けられた“6級ルート”は、今や「中級」に格下げされた。

 1990年にオーストリアに生まれたデビッド・ラマさんは2008年、ワールドカップ総合優勝(リード&ボルダリング)の栄冠を手にした若き“天才”。競技の世界で成功を重ねる一方、ロッククライミングの技術も磨いていく。

 そして彼が新たに挑んだのは、南米パタゴニアにある花崗岩の尖峰(せんぽう)セロトーレ3102㍍だ。その悪名高き南東稜をフリークライミングで登頂した者はいなかった。

 来月公開される映画「クライマー」は、彼が09年11月、11年1月、12年1月と、3度挑んでようやく宿願を果たしたドキュメンタリー。1度目は悪天で敗退。2度目は先人の残したボルトを使ってやっと登頂。

 だが、ボルト使用でフリークライミングとは認められなかった。3度目、垂直の壁を柔軟な動きで登攀(とうはん)していく彼の姿は、強靭(きょうじん)な精神力を感じさせるとともに、アルピニズムの最先端の出来事を伝えている。