初めて見た風景であるはずなのに、以前にも…


 初めて見た風景であるはずなのに、以前にもその場所に来たことがあるように感じられることがある。既視感という。フランス語ではデジャビュ。この不思議な感覚は『徒然草』(71段)にも書き留められている。

 福田恆存著『人間・この劇的なるもの』(昭和31年)にも、既視感についての独自の解釈が書かれている。

 意識のぼんやりした状態の中、何かの光景を見た場合、その記憶は無意識の領域に入り込んでしまう。ほんの一瞬間後、意識が明瞭になった時、今しがた無意識のうちに記憶されたその光景が、遠い過去のものであるかのように思い出される、というのが福田説だ。

 福田は文学者であり、脳科学者でも心理学者でもない。ただ、既視感が「前世の記憶」のようなものではなく、脳の活動の中でたまたま生じた錯覚であると考えていたことは分かる。

 この仮説から60年近い時間がたつが、既視感について明確な科学的説明がなされた様子はない。ただ、いずれ近い将来、そういう時期が来るだろうとは思う。福田説が案外的を射ていたことが証明される可能性もある。

 今や科学で解明されている日食も、古代の人々にとっては超常現象だった。考えてみれば、21世紀の今日、超常現象と呼ばれている事柄はまだまだたくさんある。我々はそれほどものを知っているわけではない。何かが解明されれば逆に我々の無知が見えてしまうことも、時には考えてみてもいい。