【上昇気流】敬語の過剰は普通になってしまっている


「そこまで言うか。そこまで気遣いしなければならないものなのか?」と考えた。朝のワイドショーの一場面。新型コロナウイルスのオミクロン株で自宅療養中の家族に言及した医大教授が、その家族の父親のことを「ご主人様」と呼んだ。見ていて思わず「エッ!」と叫んでしまった。

ご主人様という用法は、漫画やアニメなどの世界で使われるものとばかり思っていた。ご主人様の「ご」も「様」も敬語だから、そもそも過剰だ。

当今、敬語の過剰は普通になってしまっているから、気にする人は少ない。そういう時代であっても、今回のご主人様ばかりは何とも聞き苦しい。

敬語の使い方一般の問題を超えて、現在の医療の世界も言葉の使用法が厳しくなっているのだろう。先日の埼玉県での医師人質殺人事件も、犯人に呼び出されてその母親の弔問に行った中でのことだった。

事件の悪質さをいう以前に、必要のないことで医師を平然と呼び付けることがそもそも考えられないことだった。犯人の個性の問題ももちろんあるだろうが、仮にそういう要求があれば、それに応じないわけにもいかない医療側の困難や苦痛も相当のものだ。

ご主人様発言も、医学が置かれた「患者優位」の一面と大いに関係がありそうだ。山崎豊子著『白い巨塔』(1965年)は医学部教授の地位をめぐる野望と権力闘争を描いた作品だが、半世紀以上も前の当時と比べると医学界の様子はだいぶ違ってきたようだ。