「知らざァ言って聞かせやしょう。浜の真砂と…
「知らざァ言って聞かせやしょう。浜の真砂と五右衛門が歌に残せし盗人(ぬすっと)の種は尽きねえ七里ヶ浜……」。歌舞伎の「白浪五人男」浜松屋の場、弁天小僧の名セリフだ。河竹黙阿弥がこれを書いた頃、浜の真砂ほど無尽蔵さの例えに相応しいものはなかった。
しかし先日、国立環境研究所や茨城大が発表した将来予測によれば、今世紀末には日本の砂浜の85%が消滅する。このまま温暖化が進めば、日本の海面水位が60~63㌢上昇するからだ。
実は温暖化以前に、河川からの砂の供給が減り、全国各地で砂浜の後退が問題になっている。弁天小僧の鎌倉市七里ヶ浜も例外ではない。
神奈川県のホームページで戦後間もなく米軍が撮影した海岸線の写真と2007年に国土地理院が撮影したものを比べてみると、一目瞭然。砂浜が後退し、所々岩礁が露出しているのが分かる。それに海面水位の上昇が加わるというのだ。
石川県羽咋(はくい)市の千里浜には、全国で唯一車を運転できる砂浜「なぎさドライブウェイ」がある。この千里浜も1994年には50㍍あった幅が2011年には35㍍にまで後退した。
石川県では再生プロジェクトを立ち上げ、港湾の海底の土砂を供給する事業を行っており、神奈川県も湘南海岸の侵食対策に取り組んでいる。それでも、海面水位上昇に太刀打ちするのは難しいのではないか。温暖化そのものへの対策がなければ、日本が誇る白砂青松を守ることはできない。