【上昇気流】人間国宝の中村吉右衛門さん、77歳で亡くなる。


歌舞伎俳優で人間国宝の中村吉右衛門さんが77歳で亡くなった。初代松本白鸚の次男に生まれ、母方の祖父、初代中村吉右衛門の養子となってその芸を継承。80歳で「勧進帳」の弁慶を演じることを目標としていたが、多くのファンの願いでもあった。

当たり役は弁慶のほか、「仮名手本忠臣蔵」の大星由良之助、「熊谷陣屋」の熊谷直実、「俊寛」の俊寛僧都など数多い。巧みな演技とセリフ回しで、時代物の代表的なヒーローを格調高く重厚に演じた。

歌舞伎俳優の中村吉右衛門さん

一方、池波正太郎原作のテレビ時代劇「鬼平犯科帳」に出演。悪に対しては厳しく容赦がないが、人間味のある鬼平こと長谷川平蔵を演じ、茶の間の人気者となった。

最初はテレビ出演を渋っていたという吉右衛門さん。背中を押したのは、歌舞伎ファンも増やすことになればとの考えではなかったか。実際に品位と人間味を備えた鬼平像をつくり上げ、多くの視聴者に「やはり歌舞伎役者は違う」と思わせた。歌舞伎ファンの層を広げたことは間違いないと思われる。

それにしても、吉右衛門・鬼平の人気、特に中高年の支持は圧倒的なものがあった。あれはいったい何だったのか。

番組では凛々(りり)しさの一方で人情味があり、美味(うま)いものに舌鼓を打って人生を楽しむ火付盗賊改方の姿が描かれた。アンチ・ヒロイズムの傾きの強い戦後の日本で、それは理想のヒーロー像だったのではないか。それを思うと改めて損失の大きさに気付くのである。