【上昇気流】草木の花よりも草木の実の方が美しい


紅葉シーズンを迎え、新型コロナウイルスの感染拡大で行楽を控えていた人々の出足も少しずつ戻ってきそうだ。見頃は山地から平地へと移ってきているが、関東の都市部はまだまだ。その代わりというのではないが、木々の赤い実を見て楽しんでいる。

モダニズム、超現実主義の詩人、西脇順三郎は、植物に特別な愛着を持っていた。野原を散策することを好み、草木を愛(め)で、雑草も一つ一つ名前を知っていた。花や草木について独特の美意識を持っていた。

「風流人」という随筆で「草木の花よりも草木の実の方が美しいことが多い」といい、花の女王ともいうべきバラについても「花よりも九月頃になる、その実は美しいと思う」と書いている。

ほとんどの人が見向きもしないバラの実を美しいというのは、その姿かたちからなのか。「永遠」や「寂しさ」を詠ったこの詩人の独特の詩的世界観が背景にあるように思われる。

西脇の随筆を読んでから、近くの緑道を歩いても木の実が気になるようになった。まず目に付くのが、柑橘(かんきつ)系の柚子(ゆず)の実。たわわに実った多くの黄色い実が秋の日を受け輝いているのを見て、心もほっこりする。

ほかによく見掛けるのは、センリョウの赤い実。クリスマスの飾りに用いられるヒイラギに似ているが、葉の形などが違っている。ほかに赤い実が幾つかあったが、名前はこれから調べることにしている。詩人のおかげで緑道を散歩する楽しみが増えた。